順柔会(OB会)

2011/04/18

随想              
吉本真司(平成6年卒)
 
平成6年卒吉本です。今回「順天堂大学柔道部HP」のOB便りにて原稿依頼を頂きましたので、僭越ではありますが近況報告を兼ねて一言述べさせていただきます。
私は平成21年4月より13年間奉職した児玉白楊高等学校を転勤し、埼玉県立川越高等学校に勤務させていただいて3年目の春を迎えております。
前任校では血気盛んでエネルギーが有り余っている生徒達が多かったので、柔道を通しての人格形成、高校卒業資格所得、自己肯定感の育成などを柱に柔道部を運営してきました。苦労の連続でしたが一定の成果はあり、団体戦では県ベスト8に複数回入賞。個人戦でも県準優勝、3位の選手を輩出する実績を残すことが出来ました。
そして縁あって川越高校に勤務することになりましたが、覚悟していた通り前任校とは全く異なる環境でした。まずは川越高校が県内屈指の進学校で勉強には大変力を入れていること。また映画「ウォーターボーイズ」のモデル校としても有名で、男だらけのシンクロが見られる2日間で1万人以上が来場する自称日本一の文化祭「くすのき祭」という大イベントがあること。さらに男子校で制服はなく、転勤した当初は驚きと戸惑いの連続でした。
柔道部は各学年に経験者が1~2名、初心者が2~4名は入部してくるので、それなりに活動は出来ていますが、体格に恵まれた選手は少なく、名門校のように競技実績の高い選手が毎年入学してくる訳ではないので、正直厳しい現状です。
しかし、過去に5回関東大会に出場しており、近年では平成12年に県三位で関東大会に出場した実績もあるので、多数の卒業生の励ましや応援によって、生徒の中にも「目標は関東大会出場!」という意識が浸透していることは有難く思っています。
本校に赴任して一番新鮮だったのは、一つ目は「高専柔道」と出会えたことです。「高専柔道」を説明させていただくと、立ち技は技有り以上で一本以外は引き分け、寝技は両者が完全に離れない限り「待て」とならない過酷な15人戦の勝ち抜き戦です。現在では東京大学、京都大学、北海道大学、東北大学、名古屋大学、大阪大学、九州大学、いわゆる帝都七大学でのみ行われている「講道館柔道」とは異なる柔道です。
本校の卒業生には東北大、東大、京大で「高専柔道」で活躍した選手が多数おり大いに勉強させていただくことが出来ました。
二つ目は進学校同士の交流が盛んで、生徒も進学行同士の練習試合や合同練習では目を輝かせて白熱した試合を見せてくれることです。
勿論私立、公立、進学校、進学校でない学校が同じ土俵で勝負することに意義はあります。しかし、いわゆる進学校は①経験者生徒の獲得が困難である。②毎年初心者で入部してくる生徒が複数いる。③勉強面で追い込まれ共通した悩みがある。等々、生徒同士が打ち解けやすい環境です。そしてその分強烈なライバル意識も働き、練習試合では白熱した好試合が展開され、つい顧問も熱くなります。東京大学、一橋大学、慶應大学、東北大学などが主催する各種錬成大会にて進学校同士が柔道で凌ぎを削る姿も感動的です。
講道館柔道とは異なる「高専柔道」を体験し、そして柔道は必ずしも世界や日本のトップを目指すことだけが目的の競技ではなく、進学校という独特なカテゴリーの中でもしっかりと根付き、切磋琢磨されていることを学び、目から鱗が出る思いでした。
三つ目は柔道とは離れますが、川越高校は多数の優秀な人材を輩出していることです。大学教授、アナウンサー、ジャーナリスト、芸術家、政治家、教員、エンジニア、経営者、陸上競技五輪選手など、挙げれば切りがないほどです。したがって講演会や芸術鑑賞会などは大抵卒業生でまかなうことが出来、しかも大変勉強になる話をきかせてもらえます。(中には素粒子やクォークなど難しすぎてついていけない話もありますが・・・)一流の人間と触れ合うことによって学ぶことの喜びや楽しさを体験できる機会が増え、自分自身の新たな可能性に気づくことが出来ました。
このように私は新たな環境で自分なりに頑張っています。確かに以前に比べればインターハイや関東大会が遠ざかったように思うこともありますが、まずは川越高校という進学校というカテゴリーの中で、柔道だけでなく総合的な人間力を養い、やがてくるチャンスに備え頑張っていこうと思っています。
最後に順天堂大学後輩諸君に人生の先輩としてアドバイスをさせていただきます。一つ目は長い人生で考えたとき、大学時代にインカレで入賞した、団体戦レギュラーであった、レギュラーにはなれなかった、と言った客観的な評価よりも、柔道を4年間一生懸命頑張ったと自分を誇れるところまで追い込んだ自覚さえあれば、その思いの方が40歳を過ぎた頃には生かされてくるという事です。
だからといって勝たなくていいという訳ではありません。勝負である以上勝ちにこだわるのは当然です。しかし、残念ながら勝負の世界は厳しく、頑張ったからといって必ずしも勝てるとは限りません。
私も大学4年間の集大成のつもりで臨んだインカレ団体戦のVS天理大学戦で選手をはずされ、深い悲しみと悔しさを味わいました。しかし、その悔しさがあったからこそ33歳まで全国教員柔道大会に出場し続け、現在も全国高段者大会にエントリーし続けているのです。
そして全国高段者大会の会場で同年代の選手と試合をしたり話をしたりしますが、40歳くらいになると、学生時代の実績などより現在どれくらい練習できているかの方がはるかに重要となります。「練習しているものが強い。それが柔道だ。」埼玉県のある先生から頂いた言葉です。ですから学生諸君には現在は死にものぐるいで練習して勝利を目指していただきたいが、長い人生において学生時代は不遇な結果でも柔道を好きな気持ちを持ち続けていれば、必ず報われる日があることを分かっていただきたいと思います。
二つ目は順天堂大学の講義や実習は他の体育大学と比較しても圧倒的に質の高い内容であることを自覚していただきたいという事です。私は埼玉県の教員では40歳になろうというのに未だ若手状態です。それは埼玉県の若い教員志望者が中々教員採用試験に合格していない現状があります。
教員採用試験は倍率が高く難関ではありますが、近年では定年による退職者も増えてきているので私が受験したときよりは受かりやすい状況と思われます。
また、学生諸君の部員日誌をHPにて読ませていただきましたが、質の高い読ませる文章を書いている学生がおり、順天堂大学の教育水準の高さをOBとして誇りに思っています。
さらに埼玉の他競技の順天堂大学卒業の先生方の活躍を見ても目覚ましいものがあります。管理職として活躍している方、監督として全国の舞台で采配を執られている方が多数いらっしゃいます。また順天堂大学卒業生の教員採用試験合格率は高いとも伺っています。
ですから教員志望の学生諸君には柔道を死に物狂いで練習しつつも、教職を含めた単位を落とさぬよう勉強をしっかりやっていれば、採用試験に合格するための基礎的な力は養われていることを自覚していただきたい。
そして仮に大学4年次では採用試験に不合格だとしても、臨時的任用で講師をしながら自主学習に励み、1~3年以内を目標に合格を勝ち取って頂きたい。
私が大学4年生の時に運動生理学の形本先生に言われた言葉が今でも耳に残っています。「確かに現在(1990年代)教員採用試験に受かるのは難しい・・・。しかし、採用試験自体は所謂難問奇問は出題されないのだから絶対満点取ってやる位の覚悟で勉強し、そして満点が取れれば必ず合格は勝ち取れるはずだ。」
あらかじめ教員採用試験に向けた対策を立てて1年程度のスパンで勉強をしていれば合格する可能性はあると思います。
私も偉そうなことは言えず3度目の正直での教員採用試験合格でした。大学4年生の時は正直柔道に掛けたい思いが強くあまり勉強はしませんでした。案の定1次試験で不合格。そして引退後から本格的勉強を始めましたが卒業式の頃にも臨時採用の話はなく、就職や教員採用が決まっている同級生を横目に辛く思う時期もありました。ようやく5月に病休による臨時的任用で教育現場に立つことが出来、その年一次試験は合格しましたが二次試験でいくつか失敗があり不合格となりました。結果を聞いた翌日から来年は絶対に合格すると誓いを立て、対策を練りました。そして3度目の採用試験。自分の中では過去の失敗や反省は全て改善したつもりだったので「絶対に合格する。」と勝手ながら思っていました。そして合格通知が来たときは嬉しいと言うよりも安堵したのを覚えています。
私の体験が学生諸君にとってどの程度参考になるのかは分かりませんが、是非とも教員を目指す学生には頑張って頂きたいと思います。最近では退職教員の再任用制度が始まり卒業したての学生の臨時的任用の機会が減ってしまい、門戸が狭くなっている状況もありますが、採用数自体は増えているはずなのであきらめずに頑張って欲しいと思います。
以上勝手なことばかり書きましたが、順天堂大学柔道部の今後益々の発展と、学生諸君の活躍を祈念しています。OBとして学生諸君が近畿大学を破り体重別団体戦で活躍したと聞けばとても嬉しく思いますし、逆に一昨年のように東京学生個人戦で結果を出せずに尼崎に行けなかった・・・・。柔道部ではありませんが箱根駅伝に2年連続出場できなかった・・・。と、聞けば大変悲しく自分のことのように悔しく思います。
私だけでなく沢山の卒業生も同じ気持ちだと思いますので、学生諸君には「順天堂大学柔道部」の名に恥じないよう自覚と誇りを胸に日々頑張って下さい。
 
平成23年4月18日 平成6年卒 吉本 真司